銅屋根クロニクル

No.47

地味にカラフル 秋の夕刻色づく屋根
笠間稲荷神社(茨城県)

(1/1) ルーフネット 森田喜晴

JR笠間駅から約2キロ、徒歩20分弱。バスならば「笠間神社」バス停で降りて、うどん屋や饅頭屋が軒を連ねる門前通りを少し歩けば左手に一の鳥居が見える。住所は茨城県笠間市笠間1。二の鳥居をくぐれば右手に、黄金色の銀杏が覆いかぶさった手水舎が見える。銅板葺きで唐破風を持つ屋根。鬼板や木鼻の獅子も重厚で屋根が頭でっかちでアンバランスなほど立派だ。

正面、重層入母屋造りの楼門の屋根は銅板の一文字葺き。昭和36年竣工、扁額の文字は当時の神宮祭主、北白川房子によるものである。

四方を山に囲まれ笠間の中心に鎮座する笠間稲荷神社は、ご由緒書によると1349年前、孝徳天皇の時代(白雉年間)と云われ、日本三大稲荷のひとつに数えられる。また胡桃下稲荷、紋三郎稲荷とも称され、訪れる参拝客は関東有数の年間約350万人に達するという。

秋の菊まつりでは、色とりどりの菊が境内全域を埋め尽くす。参道の両脇には懸崖造りの菊が連なる。背景は大銀杏の黄葉。銅屋根の緑青の屋根は夕陽を浴びて金色に輝く。社殿の朱に光がまわると、晴れた秋の夕方には地味派手笠間稲荷が出現するというわけだ。

笠間稲荷神社(茨城県)

手水舎

湯島聖堂(東京)-樋

楼門(拝殿より)

その拝殿の奥に建つのが国の重要文化財に指定されている江戸末期建立の重層入母屋造りの本殿。総けやき造りで、周囲は当時の名工たちの技による「蘭亭曲水の図」や「三頭八方睨の龍」など精緻な彫刻で飾られている。境内の笠間稲荷美術館は正倉院と同じ高床式の校倉造りで中世六古窯の焼物などが展示されている。また樹齢400年の県指定天然記念物の一重、八重の藤の巨木も見ものである。

祭神・宇迦之御魂神(うかのみたまのみこと)は須佐之男命( すさのおのみこと) と神大市比売神(かむおおいちひめのかみ)の間の子とされ、生命の根源を司る「いのち」の根の神として農業、工業、商業、水産業など、あらゆる殖産興業の守護神として人々の生活すべてに神徳 を授ける神とされる。

伏見稲荷大社、鎮西日光と称される佐賀県鹿島市の祐徳稲荷神社、とともに日本三大稲荷の一つとされるが、他の三大〇〇と同様、伏見以外は所説ある。しかし九州では大宰府天満宮に次ぐ年間300万人が参拝者が訪れる祐徳稲荷神社が有力だ。豊川稲荷や最上稲荷が実は神社ではなく寺院であることを考えれば、伏見・笠間・有徳の三大稲荷説が妥当なところであろうか。

楼門をくぐると銅板葺きの拝殿

楼門をくぐると銅板葺きの拝殿。真横から陽が当ると、屋根は金色に輝く。

本殿

本殿。名匠達の浮き彫が壁面をおおう。

楼門の黒白一対の神馬は境内の色の散乱を引き締める。

かつてこの地には胡桃の密林があり、稲荷大神祀られていたことから、「胡桃下稲荷」(くるみがしたいなり)とも呼ばれた。また第十三代藩主井上正賢一族に門三郎という人がおり、利根川流域を中心に多数の人々に功徳を施し、信仰を広めたことから「お稲荷さんの門三郎」さらに門が紋にかわり「紋三郎稲荷」と呼ばれるようになった、と伝えられる。

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