銅屋根クロニクル

No.79

最古の公立美術館の「保存と活用」
京都市京セラ美術館(京都府)

(1/1) ルーフネット 森田喜晴

1933(昭和8)年に開館して80年間あまり、今や現存する日本で最も古い公立美術館建築として知られる「京都市美術館」開館当時の建築様式や外観を生かしながら現代的な機構を加えてリニューアル。京都市京セラ美術館の名前で、2020年6月19日に京都府民限定を解除し、全ての人を対象に前日までの事前予約制の形でのオープンとなった。

外観を維持した上での今回のリニューアルで、変わった最大のポイントは回遊と交流を生み出す広場・エントランスである。美術館前には、スロープ状の広場「京セラスクエア」が誕生。緩やかなスロープを降りると、リニューアル事業の一番のシンボルとも言える意匠の「ガラス・リボン」が正面に挿入されている。
(京都市美術館は本コーナーで、改修前の姿を紹介しているので、本協会HP「銅屋根クロニクル」No.37を参照ください。)

今回の改修では、外観は維持した上で機能向上が図られている。基本設計、実施設計監修、工事

監修を担当した青木淳・西澤徹夫設計共同体は、リニューアルのテーマを「保存と活用」とし、「可逆性のある改修と大胆な改修」を行ったという。可逆性とは、将来的な仕様の変更があった場合に容易にオリジナルの復元・再改修が可能であることを指すそうだ。その考え方の詳細は、報告書「京都市美術館本館 保存・活用の概要」に詳しい。(報告書のPDFは京都市の公式HPで見ることができる。)

本号では、リニューアルオープン直後と改修工事直前の写真と合わせて掲載する。ペアの写真は左が工事前、右が工事後。

京都市京セラ美術館(京都府)

工事前

緑青の美しい銅板屋根に関して、報告書は、「老朽化が進み、全面的な改修が必要な状態となっていた。今回の改修では、既存屋根材を部分的に撤去保管したうえで、特徴であるリブ付き瓦棒葺きの外観形状は踏襲し、乾式工法による全面葺き替えとした。屋根上の装飾役物金物は、創建当初部材の上に銅板を被せて、現地保存を図った。なお、復原部の銅板については、人工的な緑青処理は施さず、経年による変化に委ねることにし

工事後

た」と、記している。

既存本館建物は1930年代の日本で試みられた、洋風建築の上に和風建築の屋根を載せる「帝冠様式」の重要な遺構である。今回の改修では、エントランス機能の増築が求められていたが、地下部分を掘り込んで新たにメインエントランスとすることで、正面ファサード意匠はそのまま保存された。

既存の外壁煉瓦タイルのうち、ひび割れ・欠損のあるものについては、同様の仕様で制作したタイルによって張替えた

造形の名称についても、戦後になって用いられはじめた「帝冠様式」ではなく、当時の最も一般的な呼称である「日本趣味の建築」を用いることが学術的には適切であると考えられている。

既存の外壁煉瓦タイルのうち、ひび割れ・欠損のあるものについては、同様の仕様で制作したタイルによって張替えた。浮き部分は、ピンニングのうえ同色材でキャップし、ひび割れ・浮き・欠損のない箇所については、可能なかぎり既存活用

ひび割れ・浮き・欠損のない箇所については、可能なかぎり既存活用とすることで、創建当初の外観を保つ努力がなされている

とすることで、創建当初の外観を保つ努力がなされている。

なお従来、洋風の躯体に和風の屋根を冠した建築造形は「帝冠様式」と呼ばれてきたが、報告書では、この表現を見直している。建築造形に政治的背景を見るのは間違いだという見解が学界で支持を得てきている。これにともなって、造形の名称についても、戦後になって用いられはじめた「帝冠様式」ではなく、当時の最も一般的な呼称である「日本趣味の建築」を用いることが学術的には適切であると考えられている。本報告書でも主として「日本趣味の建築」を用いて叙述することとする。ただ文脈上、「帝冠様式」という用語を用いる方が自然な場合にはことさら避けることをせず併用する。

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