用語集

用語集

金属屋根工事や板金工事では独特な用語が使われており、普段の生活では馴染みがなく意味が分かりにくいものが多くあります。そこでいくつかの用語について、解説を掲載します。
解説は、旧亜鉛鉄板会が発行しておりました『亜鉛鉄板』誌のVol.44 №5及びVol.45 №5より引用しております。執筆者はナガタニルーフシステムの永谷洋司氏です。記して感謝の意を表します。
なお、掲載にあたり省略等を行った箇所があります。

【さ】

実継ぎ (サネツギ)

実継ぎは木工事で行われる板の継手の一種です。実継ぎは相決りより 高級な継ぎ方とされています。
板の両端は互いに凹凸に加工され、板 どうしが互いに嵌め合うようになっています。床板の継手はこの継手 が利用され、釘は図の点線で示した箇所に打ち付けられ、表面から釘 は見えません。
板金工事にもこれに似た継手が行われています。図の ように板を継ぎます。厚さが1.0mm以上の幕板や化粧板の継手に用いま す。

四柱 (シチュウ)

古い日本建築で屋根の雨水の流れを注といいます。したがって四注は屋根の雨水が四方向に流れる屋根、つまり寄棟屋根や方形屋根ということになります。また四注は四阿(シア)とも呼ばれていました。
ついでですが、四注と同様に六角形の屋根を六注といい八角形の屋根を八注といいます。

鴟尾 (シビ)

大棟の両端部に鬼瓦と両様に取り付けられる棟飾りの一種です。鴟尾の起源はいまだ不明ですが、外来説が正しいようです。鴟尾を付ける目的は、辟邪(へキジャ)や火伏せ(ヒブセ)など、いずれにしても世の中の邪悪と火災を防ぐという神仏の通力を願っているもののようです。形は海中に棲んでいる雨を降らせる魚を模したり、印度の摩伽羅(マカラ:鰐か竜に似た架空の動物)が起源とか、さらに鳥を形取ったものなどという説があります。有名な鴟尾は唐招提寺の金堂や東大寺の大仏殿に見られます。
なお鴟尾は鵄尾とも鮪とも書かれ、さらに沓形とも書きました。読み方も訓読みで(とぴのお)ともいいました。
鴟尾は時代と共に変化し鯱となりますが、名古屋城の金の鯱鉾は有名です。

蛇腹 (じゃばら)

建築でいう蛇腹は天井と壁の接点部分などに用いられ、連続的に繰り形を付けた装飾的なものです。板金工事では、角型の軒どいに蛇腹をつけることがあります。
軒どいは、角どいになると、といの前面高さが大きくなり、平坦に見えて軒先の外観を損なう感じがします。そこでこの前面の部分に装飾的な繰り形つけて軒先の外観を整えることを行います。これを蛇腹付き軒どいと呼びます。あんこうやますにも蛇腹上の繰り形をつけることが多い。

正面打ち (しょうめんうち)

軒樋の受金物の取り付け方・または取り付け方向から名付けられた軒樋 受金物の種類の一つです。形は図のようなもので、鼻隠し板などに建物 に向かって正面から釘などで打ちつけられるため付いた名称です。

すがもれ

寒い地方の建物で、冬になると室内の暖気や昼間の太陽熱のため屋根上の雪が融けて水となり、軒先に向かって流れます。このとき軒先が外壁より突出していて、屋根面が外気温によって冷えていると、融けた水は軒先で凍ります。その結果、つららや氷提ができます。この氷提のため、あとから流れてきた水はプール状となり、屋根面の少しの欠陥部分からでも室内に侵入します。この現象を「すがもれ」といいます。なお「すがもり」ということもあります。
すがもれは、ちょうど外壁から室内で起こり、床と壁がひどく水漏れします。図はすがもれの状態を表しています。

すがもれを防ぐには次のような対策が必要です。
① 天井面の断熱や屋根面の断熱を十分にする。
② 軒先の屋根勾配を急にし、溜る水量を少なくする。
③ 軒天井を設けて室内暖気を軒先に導入し、屋根面を暖め氷提が出来ないようにする。
④ 軒先で氷提が出来る部分をヒーターで暖める。

などが行われています。もちろん、屋根面の防水性が完全であれば、すがもれが発生しても水漏れは起こりませんから、実害面からはすがもれとなりません。
このほか、棟の位置に屋上換気扇があって暖かい空気が排出され、そのため換気扇周囲の雪が融けた場合も、軒先のすがもれ同様の結果となることがあります。

墨 (すみ)

我国には、伝統的な建築工法として「規矩術(きくじゅつ)」があります。これは、立体幾何学を応用した作図法です。墨はその中に使われている用語でした。しかし現在では、規矩術から離れて日常使われている言葉となりました。
建築工事の現場内では、あらゆる職種で墨を必要とし、もし墨が無ければ工事が不可能となるでしょう。
さて、墨とは建設中の建物の至るところで記されているマークのことで、例えば屋根の場合屋根部材の取り付けに先き立って下地に働き寸法をマーキングします。一文字葺の場合でも馳位置を下地にマーキングします。これを「墨出し」とか「墨打ち」といいます。この作業の主役は、墨壷と墨指で、図のような形をしたものです。

墨壷は、相当長い距離に線を引く道具で、墨指はマーキングつまり墨を付けたり文字や記号を記すめの道具です。
墨出しされた墨は、あらゆる部材の取り付けや組み立ての位置を表わす重要なものです。
墨には、付け方によって次のような種類があります。 「心墨」は、部材の中心や通り心を表わす墨で、「逃げ墨」は、墨をしようにも付ける相手が無い場合や、後日墨が消えると困る場合などの時に用います。

隅勾配の伸び率 (すみこうばいののびりつ)

隅勾配の伸び率は平勾配の伸び率よりもやや複雑になります。隅勾配は図のl2の部分の勾配をいいます。従って隅勾配θは
θ= H /l1で表わされます。また、隅勾配の伸び率βは
β=l2/l1となります。
ところで、図のようにL1が桁方向と妻方向が同じ場合のl1
l1= L1×√2の関係となります。
表に平勾配に対する隅勾配と隅勾配の伸び率を掲げます。

青海波 (せいかいなみ)

これも組棟に装飾の目的で用いる役瓦の一種です。
この形も我国古来の文様の一種で、組み上けると丁度波の形となります。

正荷重 (セイカジュウ)

屋根に対して上から下方向に向かって働く荷重、例えば自重や積雪荷重などを正荷重 といいます。逆に下から上方向に加わる荷重、例えば風荷重を負荷重といいます。こ の正負の荷重は、屋根に限らずすべての部材にも作用するのは当然です。
ところで折 板はそのJIS規格のなかで、正荷重と負荷重の曲げ耐力試験を行うよう決められていま す。その理由としては折板、特に馳締め型折板は正荷重と負荷重の試験結果、求めら れる断面2次モーメントと断面係数が正負で大きな差があるからです。例えばある形状 の馳締め型折板で、板厚がO.8mmの場合は正の断面2次モーメン卜が負のそれの1.22倍 となっています。このようになる原因は、およそ次の原因と思います。
① 板の厚さが 断面の各辺の長さに対して薄い(幅厚比が大きいといいます)ので変形しやすい。
② 中立軸の位置が断面の上の方に片よっている。従って板1枚で構成されている底とウエ ブ部分に圧縮力が働いた場合、容易に部分座屈を起こして折板は破壊する。
しかし、 重ね型折板の場合は中立軸の位置が比較的中央にあり、馳締め型折板より強いようで す。
一方、H型鋼は中立軸がちょうど真ん中にあり、断面上下のパランスがいいので、 折板のような難しい問題はほとんどありません。図を参考にご覧下さい。
以上ですが 、折板に関してはまだ細部については完全に解明されていません。
とにかく折板は風 荷重に対しては積雪荷重より弱いということをご記憶下さい。

相輪  (ソウリン)

仏寺の塔婆(とうば) の頂部に設けられる金属製の部分を相輪といいます。別に九輪とも呼ばれています。塔婆は梵語のスツーパ(Stupa)からきた言葉で、漢字で「数斗婆」や「私塔婆」などと音訳され、さらに塔婆、堵婆のように変化しました。最後にただ単に塔なったともいわれています。
ところで塔婆の起源となった古代インドのスツーパは、土石を積み上げた墳墓ですが、これが中国に渡って土饅頭墳墓と変化したものです。古くは石を層状に積み上げた簡単なもののようですが、やがて高さが高くなり、傘状の扇平な石と柱状の短い石を積み重ねた形となりました。
このような形式は、木造の楼閣建築が発達するとともによい高い塔が作られるようになり、下層の方は木造とし、頂部に相輪となり塔の原形が残ることになりました。
我国には中国の楼閣様式が、朝鮮半島を経由して入ってきました。
三重や五重さらには多層の木造の塔の最上層の屋根の頂部に相輪という形で、スツーパの姿があります。これらの建築物を多層塔とか層塔などと呼んでいます。
相輸の高さと全高さとの比は、古い建物ほど大きく時代が経るに従って小さくなります。図は法隆寺の五重の搭の例です。
先ず屋根の最頂部分の上に、相輸の最下部に当たる方形箱形(屋根が八角形ならば八角形)の露盤(ろばん)が設けられます。その上に饅頭形の伏鉢(ふくばち、覆鉢とも書きます)、受花(うけばな、請花とか受華とも書きます)が付きます。受花は蓮の花の蓮辨(花辨)の形を模して作られています。その上から輪が通常九個取り付けられます。この輸が相輪のうち最も重要な部分を構成しているもので、前述のように九個あるので九輪という俗称で呼ばれています。この輸を正式には宝輪(ほうりん)といいます。宝輪には透かし彫刻が施され、さらに複数の風鐸(ふうたく)が取り付けられます。
その上には細かい透かし彫りをした水煙(すいえん)があります。元来水煙は火焔(かえん)で火をデザインしたものでしたが、後世になって火は火災と解され嫌われ、水煙になった経鋒があります。
やはり建物を火災から守るという気持ちがそうさせたのでしょう。
その上に二つの珠(たま)が付きます。下の珠は龍舎(りゅうしゃ、龍車とも書きます)、上の珠は宝珠(ほうじゅ)で、相輪の最上部となります。
相輸は以上の各部分から構成されますが、それらの中心には柱があります。この柱を擦管といわれます。
我が国の相輪は上記のように構成されますが、中国のそれは色々な様式の相輪があり多様化しています。余談ですが、法隆寺の五重の塔の露盤の4面には、各2個づつの三つ葉葵が計8個付いています。これは建立時のものではなく、江戸時代の改修工事の時に付けられたものです。

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